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【BookReview】『アリ語で寝言を言いました』村上貴弘
- 01_自然観察,07_おすすめ本・映画
兵庫県の理科実験教室、キッズアース播磨町校です。
今回は本の紹介です。
【アリ語で寝言!?】
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題名の秀逸さに惹かれて、思わず買ってしまいました。
それにしても、こんなにも身近にいる生き物なのに、全然知らないものですね。
昆虫に関連して良く出る問題で、「完全変態」か「不完全変態」か、というのがあります。
分かりやすく言えば、サナギになる昆虫が「完全変態」、サナギにならないのが「不完全変態」です。
チョウやカブトムシは「完全変態」で、
バッタやカマキリが「不完全変態」です。
では、アリは?
「完全変態」です。
ということは、アリにも「幼虫」の時期があって、「サナギ」になる、ということです。
でも、あまり見たことないですよね。
それも当然。
アリは巣の中で幼虫やサナギを育てているからです。
ですから、アリの巣の実験や観察をしたことのある人は、見たことがあると思います。
チョウの、幼虫は、いわゆるイモムシですが、卵こそ、幼虫が食べる葉っぱに産みますが、別に親や他のチョウが子育てするわけではありません。
カブトムシだって、卵を産んだら死んでしまいますから、子育てはしません。
しかし、アリは、複雑な社会を持ち、集団で子育てをする昆虫なのです。
これを「真社会性生物」と言うそうです。
「真社会性生物」の定義は
- 集団が協力して子育てする
- 繁殖だけを行う個体が存在し、不妊の個体が繁殖個体を助ける
- 子の世代が巣内の労働をする程度に成長するまで親世代と共存する
この種類の生物には、アリやハチ、シロアリなどの昆虫類、
また、哺乳類にはハダカデバネズミなどがいます。
こんな「真社会性生物」であるアリに惹かれた研究者による、とっても複雑で不思議なアリの物語。
読めば読むほど引き込まれる興味深い内容の本でした。
【様々なアリたち】
さて、第一章で紹介されるのは、本当に不思議なアリたちです。
ミツツボアリの中には、貯蔵庫役を果たす働きアリがいます。
仲間が集めてきた蜜を、自分のお腹にため込み、エサの少ない時期に他のアリに分け与える一生を送ります。
ナベブタアリの中には、巣の扉の役割を果たすアリがいます。
木の枝に作った巣の入口に平らな形になった頭でフタをし、敵の侵入を防ぐのです。
ツムギアリは、幼虫が繭を作るための糸を巣作りに使います。
働きアリが、幼虫をくわえ、、幼虫の糸で葉と葉を紡いで巣を作るのです。
ジバクアリの働きアリの中には、自爆するものがいます。
敵に襲われたり、巣に侵入者があると、毒腺を膨らませて爆発し、相手を道連れに死んでしまうのです。
写真はwikiより
ミツツボアリ:Greg Hume at en.wikipedia, CC 表示 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2224330による
ナベブタアリ:By J.M.Garg - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=7013440
ツムギアリ:Alex Wild - 投稿者自身による作品, CC0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=18089550による
それぞれが、特化した姿形で生まれつき、集団全体のために自分の役割を果たすアリたち。
このように全体でまるで1つの生き物のようにふるまう集団を「超個体」と言うそうです。
【農業をし、アリ語を喋るアリ】
第二章三章では、農業をしアリ語を喋るアリ、ハキリアリについての話になります。
(この本の表紙になっているアリです)
そう、アリが農業をするのです。育てるのはキノコ。
巣の中にキノコ畑を作り、育てたキノコを女王アリや、幼虫のエサにします。
しかも、このキノコアリ、17属250種もいるのです!
そして、このキノコアリの中で、最も複雑で大きな社会を作っているのがハキリアリです。
ここから先のとんでもない発見は、本文を是非お読みください。
ハキリアリの育てるキノコの正体、キノコを育てる理由、キノコの育て方...
ハキリアリはどこで「喋る」のか、どうやってそれを解析するのか、この研究の先に何があるのか...
知的刺激をうけること間違いなしの物語が描かれます。
【アリはいかに働くか】
第4章第5章ではアリの働き方についての話になります。
アリも種類によって「働き方」が違います。
ご存知の方も多いでしょうが、働きアリは全てメスです。
女王アリももちろんメス。ならばオスは?
アリのオスには生まれ変わりたくない、という作者の意見には大賛成です。
その理由は...本文をどうぞ。
【ヒアリを正しく恐れるために】
そして第6章のテーマはヒアリ。
写真はwikiより
By Stephen Ausmus - http://www.ars.usda.gov/is/graphics/photos/dec04/k11622-1.htm, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=10112924
ヒアリは元の生息地では「弱者」であったという話に驚きました。
ジャングルに生息しながら森の中には住めず、全滅の危機に対応するため、卵をたくさん産むという性質が、どんな厳しい環境でも生きる力をつけ、「外来種」としての進出を助ける結果になったとは...
ヒアリは「殺人アリ」の異名もありますが、先生によると、その「怖さ」は限定的でもあります。
この章の題名にもあるように「正しく恐れる」ことこそが大切なのです。
【目の前の好奇心に向き合う大切さ】
アリの研究は、すぐに何かの役に立つ研究、というわけではないかもしれません。
しかし、この本にあるように、アリの多様な「社会」の作り方は我々に「生き方」についての示唆を与えてくれます。
かつて、有名なチョウの研究者が「この研究は何の役に立つのですか」との質問に「何の役にも立ちません」と胸を張って答えたそうですが、それが今では重要な基礎研究として活かされているという話があります。
学問は「役に立てる」ために行うものではありません。
人間の「知りたい」という気持ちに応えるために行われる行為であり、その無償の「知」こそが、未来を切り拓くのです。
目の前の利益のことしか考えられない「政治屋」には理解できないでしょうが、彼らの懐を肥やすくらいなら、給料も人数も半分にして、基礎研究の為に充てて頂きたいものです。
共明塾/キッズアース播磨町校としては、目の前の好奇心にしっかりと向き合い、「学問」について理解できる、そういった人財を育てていきたいと考えています。
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